写真家列伝 | Photographer biography

第8回高砂淳二

東北・石巻出身の海とは縁のない
電子工学専攻の学生が世界中の海に潜る写真家に。

高砂さんの写真集『BLUE』は、気持ちのよい青い南の海だけではなく、「母なる海」を感じるスピリチュアルな素敵な本である。

高砂淳二(たかさごじゅんじ)といえば、やさしく洞察的な海の写真を撮る写真家として、特に女性に圧倒的な人気を誇ることで知られている。近年ではハワイなどの陸上の風景もフィールドとしている。

もともと海にかかわる仕事がしたかったのですか? との質問に意外な答えが返ってきた。石巻出身だから漁業としての海は身近だったけれど、内陸にある宇都宮大学に進み、電子工学を専攻。海の仕事に就くとは思わなかった。

「電子工学の才能がないことだけは確実だったんで(笑)当時始まったばかりのワーキングホリデー制度を使ってオーストラリアに半年ほど行ったんですね。たまたまそこにはグレートバリアリーフがあった(笑)」

パースに辿り着いたとき、バイトをして初めてのダイビングを体験する。
「ここの海の色は、ダイビングしなくちゃと思わせてくれる色だったけれど、潜るにはお金がかかる。それでやってみたらはまってしまったんです」

潜ってはバイトし、バイトしては潜った。20年以上前のことだ。「水中で写真を撮る人がいて、その写真が売れると聞いて、これだ! と思った」という。水中写真を仕事にすれば、いつでもダイビングできる、と思うくらい、のめりこんでいった。

帰国後、大学に復学したが、やはり海が忘れられない。ダイビング雑誌に売りこみに行くと、そのままバイト兼専属カメラマンとして採用された。ダイビングをするためという手段が、写真家という生涯に繋がっていくのだから人生は、面白い。
当時の水中写真というと、生態系によっていたり、深い海の生き物を撮ろうというのが主流だった。しかし高砂は、海の中の気持ちよさ、楽しさを求める作風を確立していく。

「ぼくは明るい海が好きだったので、生物がいる気持ちがいい風景を撮っていたんですね。気づいてみたらそういう写真が溜まっていて、初めての写真集『free―高砂淳二写真集』(93年)になったんです」。

つづく『BLUE』では、海の中に広がる、明るい青い海、深遠な青の洞窟……など、様々な青をテーマに作品を展開している。

かつては、水中ではフィルムを交換できないから、大事にしながら撮影するしかなかった。また、小魚が自分の上を泳いでいくのを待つため、じっと待って撮る。こうして撮られた作品からは、地上とはまったく違うゆったりした生き物たちのリズム感がしっかりと伝わってくるはずだ。

写真家をはじめて20年が過ぎ、フィールドは陸にも空にも広がっている。最新作では虹に挑んでいる。幻想的な夜の虹を題材とした『night rainbow 祝福の虹』、世界中の美しい虹を追った『虹の星』の2冊となっている。

珠玉の「青」をお楽しみいただきたい。


PROFILE

■高砂淳二(たかさご じゅんじ)
1962年生まれ。
大学在学中にオーストラリアを放浪。ダイビングと写真を始める。卒業後、ダイビング専門誌の専属カメラマンを経て1989年に独立。以後、ハワイなど南洋の島々の海をメインに、そこに暮らす人々や動物たちを撮影。月の光で出現する「夜の虹」を世界で初めて収めた『night rainbow -祝福の虹-』(小学館)等の写真集で高い評価を受ける。現在は地球全体をフィールドにし、撮影活動を行っている。