第1回三好和義
一生のタイトルになった天才写真家
「南の島は、ぼくにとっては振り子の真ん中。時々戻っては見直す場所。卒業することはないね」と、久しぶりのモルディブ撮影から帰ってきたばかりの三好和義(みよしかずよし)は、よく焼けた顔から白い歯を見せ、笑った。すぐに沖縄に撮影に出かけるところだという。
ヤシの木が植えてある徳島駅前に生まれ、育った。バナナを輸入する青果業を営んでいたため、まだ熟していない青い状態のまま室(むろ)に入れられて追熟されるバナナを見て育った。そんなせいもあって、「南の島に楽園をイメージしていたのは、幼いころからだった」三好は、中学2年生になって、復帰直後の沖縄・先島諸島(宮古、石垣など)へ一人旅を選ぶ。
初めて見た沖縄は、景色が違っていた。珊瑚礁の青い海、鮮やかな熱帯魚。素朴で美しい島の生活を目の当たりにする。このとき民宿で知り合った写真家に「カメラマンになれば世界中を旅できるぞ」と言われ、写真家を志すようになる。74年、高校1年の夏、再訪。撮った写真をコンテストに出して入選したことで三好の写真家生活はスタートした。75年17歳で二科展入選、翌年には史上最年少で銀座ニコンサロンで個展「沖縄 先島」を開き、徳島の少年は一躍天才写真家として知られるようになる。
大学進学のため上京。すぐに仕事の依頼がくるようになった。
初めて撮った広告がこれまた当時天才テニスプレーヤーだったビヨン・ボルグ。スタジオで写真を撮ったこともほとんどなく、慌ててハッセルブラッドを銀座にある「銀一カメラ」で出世払いで調達して撮った。雑誌ブルータスの創刊、広告写真の依頼……万事が順調だった。しかし、指示されたとおりに撮影する「仕事」が次第にストレスになった三好は、一切の仕事をキャンセルする。
「スタジオで撮る仕事は好きじゃないことに気がついた。ぼくは美味しいものが大好きだけど、雑誌の取材では撮影しているカメラマンは食べられないからね」と三好は当時のことを笑って話す。
稼いだお金で写真を撮りに行こう。セーシェル、モルディブへ出かけた。自分の撮りたい写真はこういうものだと思った。つまり「楽園」を撮りたかったのだ、と気がついた。このときの撮影をまとめたのが、初めての写真集『RAKUEN』。この写真集でまたも当時史上最年少で「木村伊兵衛写真賞」を受賞する。楽園写真家、水平線のフォトグラファー、三好和義の誕生である。
じつは、少年時代、初めてコンテストに出すために、写真につけた何気ないタイトルが「楽園」だったのだ。それが三好の一生のコンセプトになるとは、自身「思いもしなかった」と苦笑いする。
「楽園」の原風景は、南の島だった。
だが、サハラの厳しい砂漠にも、ヒマラヤにも、南極にも「楽園」はあった。ふと気がつくと屋久島を撮り、ふるさと四国の八十八ヶ所巡り、吉野川、桜巡り。緑の楽園であり、精神の楽園が日本にあった。
「桃源郷、シャングリラ、言葉は違うけれども、美しい情景に出会い、心地よい空間に身をゆだねる。そこはどこでもぼくには“楽園”なんだ」
写真家としての三好和義は、「自分の好きな写真をコレクションして、人に見せて自慢できればいいなあ」という趣味の世界が理想だという。単なる「仕事」ではない。だから、自室には土門拳をはじめ大好きな写真家の写真、オリジナルプリントまで収集している。
久しぶりに行ったモルディブはいかがでしたか? と三好に尋ねた。
「地震から復興したモルディブは、ものすごい勢いで進化していた。日本の水族館でも流行った水中チューブを実際の海中につくって、レストランやスパにしているんだ。周りには本物の自然の熱帯魚が泳いでいるからすごいよ!料理も、ぼくは世界中のリゾートホテルを旅しているけれど、もしかすると一番美味しいかもしれない、それぐらいすごい。日本人シェフがいてちゃんとした西京漬けがでたんだけど、青い海を見ながら、日本食を食べている自分がシュールだったね」
世界中のセレブが予約するため、結局、撮影どころか予約すらできなかったホテルもあったという。
「南の島は時々行かないとダメだね。ぼくにとっては南の島は常に軸。本当の楽園はきっとみんなの心の中にあるんだけれど、ぼくは形にして表現したい。今中国の世界遺産をすべて撮るプロジェクトをやっているけど、極楽浄土から南の島の理想郷が見えてくるんだ」
「楽園」「理想郷」を銀塩プリントの中に閉じ込めたオリジナルプリント。三好が写真という<形>で表現する楽園をぜひ、味わっていただきたい。
■三好和義(みよし かずよし)
1958年、徳島県生まれ。
17歳で二科展入選、18歳で銀座ニコンサロンにて個展、28歳で木村伊兵衛写真賞を受賞と、ことごとく当時最年少の記録をもつ。
楽園をテーマにハワイ、モルディブ、セイシェル、タヒチなど世界中の海辺やリゾートを巡り、さらに屋久島や徳島、吉野川など、日本各地を撮影、写真集を出版している。