第11回水野克比古 紅葉編
地元・京都の四季を撮り続け、世界的に評価の高い水野克比古(みずのかつひこ)。英語版の写真集がこれほど発行されている写真家はいないだろう。京の美を、数多く存在する寺社はもちろん、ひっそりと佇む京町家のなかにも見つけ、「京都写真」というジャンルを作り出した写真家の足取りを紹介したい。今回は、水野の京都との出合いと紅葉について。
写真がモノクロからカラーに変わりつつあった1969年、東京の写真専門学校で講師をしていた水野は地元・京都に戻ることを決めた。それまでモノクロで報道写真を撮っていた水野だったが、カラーで撮影するべきものが何なのかを考えたときに思い浮かんだのが京都の四季だった。「四季の変化は、カラーで表現するからこそ意味がある。とくに、生まれ育った京都の紅葉がいい」そうして水野は京都を撮り始めたのだ。
まだ、観光というものが一般的でなかった時代にもかかわらず、「京都が観光で脚光を浴びる時代が来る」という目論見は当たった。70年代に『anan』や『non-no』などの女性誌で、続々と京都特集が組まれると多くの人が京都を訪れた。それに伴って水野の写真が次々と紹介され、「京都写真」の第一人者と呼ばれるようになった。
京都の紅葉は、11月に高雄山の神護寺から始まり、だんだんと山を下って12月に入ると下鴨神社の糺ノ森で終わりを迎える。毎年シーズンになると100か所にも及ぶポイントで紅葉の撮影を行なっているという。
「紅葉が緑から対極である赤へと変化するのは、何度見てもドラマチック。朝日を透過して輝いている紅葉はもちろん、雨風に散る葉も、地面に落ちた寂寥感もいいですね」と水野はその魅力を語る。
毎年同じ場所を訪れても、毎年同じ写真が撮れるわけではない。紅葉の色づき方も違えば、もちろん天気によって見える姿は大きく異なる。50年近く紅葉の撮影を続けている水野でさえ、毎年のように新たな発見があるという。
「写真家は一葉でも美しい紅葉があれば足を止めます。誰も気づいていない小さな一本を見つけ、独り占めする幸福感は格別。京都はどこを歩いても紅葉の名所なんですよ」
京都の人々は古くから紅葉を愛でてきた。寺社や庭園、町家などいたるところにカエデが植えられ、大事に手入れがされている。京都の町の一部として、人々の生活の中にあるのだ。だから、水野は京都を「自然と人が調和する、理想の町」という言葉で表現する。
平安時代から受け継がれてきた様々な文化と自然、そこに暮らす人々が作り上げてきた京都という町。自然だけではない人間だけでもない、その両者の関わり合いは常に変化をもたらしてきた。何気ない場所のなかにある積み重ねを水野は記録し続けている。
「営々と続く時間の、今というほんのひとときを写し留めるのが写真。移ろいゆく世界との出会いを大切に、これからもシャッターを押し続けようと思います」
■水野克比古(みずの かつひこ)
1941年京都生まれ。
京都をテーマにした写真集を多数出版する「京都写真」の第一人者。日本の伝統文化を深く見つめ、1969年から風景、庭園、建築など京都の風物を題材とした撮影に取り組んでいる。その作品は国内はもとより、「美しい京都を撮る写真家」として海外での評価が高い。京都・西陣の町屋を改造した“写真館”を所有。内部の見学もできる。
日本写真家協会会員、日本写真芸術学会会員。
2015年「京都府文化賞」功労賞を受賞。